乗月譚

第一閲覧室

月に関する物語が記されている本だ。


「我らが村の貧しきを我らは嘆く。それが宿命とあらば、宿命を憎む。それは人の持つ心の、全き自然のありようなのではないのか?」その村の若者は仙人に異を唱えた。
彼には仙人として世俗を脱し、時の輪廻を超えたる者の言葉こそ、自然ならざる視野にあると訴えた。仙人は、自らの立場によりて、この若者を諭すに困難であんと理解していた。
ゆえに、仙人は自らの言葉の添え人をその場で導かねばならなかった。
仙人はしばし黙考した。
そして自らがゆだねた道筋を照らす月、その者の加護に思い至った。
それは天上の代弁者であったろう。「はるか天よりしろしめすその者の満ち欠けは光と影の織り成すもの、白き生命と黒き死の表情がつむぐ。
我らは日頃より白きを見い出し、黒きに目をつぶれど、その真理において二つの存在を知るところであり、即ちそこから真なる叡智とは一柱に支えられるものではなく、二つの表裏がねじれ、より合わさってできた螺旋であると知る。」「されば、死を迎え入れよ。己が生命、その尊さを知るがゆえに。月が満ちればそこに生命を見る。月が欠ければそこに死を見る。かの者の満ち欠けに罪も悪もなければ、その影に善も正義もなく。ただ理を以って、それはただ暦を刻み、我らにその姿を刻み込む。」仙人の厳しい叱責にその若者は打たれ、天上の理に畏敬の念を心した。
そして仙人は今宵の月の美しさに感謝しこの場を言い逃れた奇跡を天の配剤としてこれを受け入れたのだった。


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